見える化研究会の出版物をご紹介します。
定年を活きる
著者:丹下博文(企業経営総合研究所 代表)
書籍の概要
かつて戦後の日本は高度経済成長と人口増加が続いたため1980年ころは日本的経営が世界中で脚光を浴び、その支柱となる終身雇用制度や年功序列型賃金体系のもとで定年制の存在は従業員の新陳代謝を高める点で合理性がありました。ところが時代が変遷し、21世紀になってから「定年」を取り巻く状況は様変わりしています。例えば筆者が早くも30年以上も前の1998年( 平成10年) に大蔵省印刷局( 現・財務省印刷局) から『ひるむな中高年! 』と題する著書を出版し、その副題は「超高齢社会をどう生きるか」としました。
しかしながら、この著書が出版された20世紀末ころは、超高齢社会とは言っても超高齢社会の目安となる高齢化率( 65歳以上の高齢者の人口比率) はまだ21% に達しておらず「人生80年時代」と呼ばれており、現在のような「人生100年時代」は想定されていなかったのです。実際、「ライフ・シフト( LIFE SHIFT )」と邦訳されて世界的ベストセラーとなった英語の原典『THE 100-YEAR LIFE 』が英国で出版されたのは2016年になってからで、これ以降に「人生100年時代」という表現が日本社会に浸透し定着しました。
この『ひるむな中高年! 』が出版された当時、1947~49年の第1次ベビーブームに誕生したいわゆる「団塊の世代」は50歳前後となり、さらに1972? 74年の第2次ベビーブームに誕生した「団塊ジュニアの世代」はまだ25歳前後で、それほど強く「定年」というライフステージを意識する必要はなかったでしょう。ただし、経済的に日本は1990~91年に勃発したバブル崩壊から「失われた10年」と別称されるほどの景気低迷とデフレに見舞われ、1993~2004年ころは就職氷河期が到来したため高校や大学を卒業した当時の若年層は未曾有( みぞう) の就職難に遭遇し、非正規雇用が増加する「就職氷河期世代」が出現しました。そして、この世代が現在、40歳代前後の「働き盛り」の年代に達している経緯も忘れてはなりません。さらに2008年秋のリーマンショック後にも就職難が再来しましたが、現在はI T ( 情報技術) やデジタルに強い「Z 世代」と呼ばれる新しい若年層が登場しています。
一方、日本経済はバブル崩壊後に「失われた30年」と呼ばれるくらい国際的に衰退し続け、2010年には名目GDP ( 国内総生産) ベースで米国に次ぐ世界第2位であった経済大国の地位を中国に奪われ、ついに24年には人口が日本の3分の2ほどしかないドイツにも抜かれ第4位に転落しました。このような情勢のもとで、19年から始まった働き方改革に加え、最近になり「定年」の在( あ) り方に対する議論が急速に深まってきました。その潮流は定年退職や役職定年を控えた中高年層だけでなく、早期退職やFIRE ( 経済的自立・早期退職) への志向が高揚してきた若年層のライフスタイルにも大きな影響をおよぼしています。
また、高齢化とともに少子化が顕著となり、将来的に人口減少が加速するとともに若年層が少なくなるため、世代間扶養に基づく社会保障としての公的年金制度の存続が疑問視されるようになりました。2019年には金融庁の報告書が発端となって「老後2000万円問題」が話題を集めました。実際のところ、24年から導入された新NISA( 少額投資非課税制度) への関心が特に若年層において高いのは、老後における年金への不安を反映していると考えられます。さらに国民年金や厚生年金のような公的年金に加え、老後資金を準備するために個人型確定拠出年金(iDeCo) や企業年金などの私的年金への需要贈も見込まれます。
2021年には改正高年齢者雇用安定法によって70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務と定められました。これにより、定年を延長したり65歳以上に設定したり定年自体を廃止したりする企業が少しずつ増加してきています。労働者不足を補うために高齢者の雇用環境を整備し推進しなければならない、とう認識も高まってきています。ところが、いまだ多くの日本企業では60歳定年後に継続雇用制度を設け、65歳まで非正規で働けるようにしているのが現状ではないでしょうか。
このほかにも、日本の著名な経済人が23年に45歳定年制を打ち出して物議をかもしたり、24年1月にはOECD( 経済協力開発機構) から日本に対し対日経済審査報告書のなかで定年制廃止が提言されるなど、定年に関する議論は尽きることがないどころか今後ますます沸騰していくと予想されます。続く同年5月には日本で高齢者の定義を65歳から70歳に引き上げる提言も注目を浴びました。
実際のところ、日本企業では従来の定年を前提としたメンバーシップ型雇用から、転職が普通に行われる欧米型のジョブ型雇用への移行が叫ばれるようになりましたが、これも企業経営における定年制の在り方に大いに関係があるでしょう。さらに「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、日本の人口の5人に1人が後期高齢者となる「2025年問題」もあります。つまり、高齢化に少子化が加わって日本の人口は2008年をピークに10年から急激な人口減少が続き、日本社会では定年などの雇用面だけでなく年金や医療・介護・育児といった福祉面に関する難題が山積することとなったのです。
以上の緒情勢を踏まえ、今回出版した『定年を活( い) きる』では、定年や転職や投資などを経験した筆者の多様な実体験をもとに定年退職や役職定年といった「定年」を乗り越える方策だけでなく、早期退職やF I R E 、さらに転職やリストラに対しても役立つような考え方や知識や知恵を提案していきます。事実、筆者は「貯蓄から投資へ」という政策や、介護問題の深刻化によって平均寿命より健康寿命が重視されるようになってきた動向のなかで、白内障の手術に加えて帯状疱疹( ほうしん) や十二指腸潰瘍穿孔( せんこう) などを患( わずら) い、糖尿病という基礎疾患を抱えていても定年後に健康面で大きな問題がないうえ、現役で働いていた時より定年後に年収や金融資産を大幅に増やしています。ちなみに筆者が『ひるむな中高年! 』を著したのは48歳の時でしたが、それ以来20年以上にわたる間に投資や人間関係や仕事面における成功や失敗とともに、悲喜こもごもにわたる様々な数多くの人生経験を積み重ねてきました。
なお、本書のタイトルで「生( い)きる」ではなく「活( い)きる」と表現した背景には、若年から中高年にいたる全ての老若男女にいずれ訪れる「定年」という人生の大きな節目( ふしめ) を否定的・悲観的に見るのではなく、肯定的または前向きに捉( とら) え直し、人生100年時代に向けて「勇気( courage )」を与えたいという筆者の願いが込められています。そこで「定年を活きる」を略した「定活( ていかつ)」という用語も提唱しています。これは「就活」「婚活」「終活」「推( お) し活」があるなら定年に関わる「定活」もあるべきだ、という発想に由来しています。しかも、この新しい「定活」はあらゆる世代を巻き込んで40歳代ころから深化し始め、50歳代、60歳代、70歳代、80歳代にいたるまで非常に長期間にわたる中高年のライフステージを形成します。それゆえ「就活」「婚活」「終活」以上に人生100年時代という長寿化する人生のライフプランづくりにおいて重要な活動になるわけです。
これまで日本国内で自己啓発本は数多く出版されていますが、本書は筆者の持論である「経営学は人間学」という観点から、従来、研究者として執筆し続けてきた統計数値などを駆使した学術書というより、活字を少し大きくすることなどによって読みやすくした書き下ろしの「読み物」として執筆されています。こうして本書が人生100年時代に「定年」という大きなライフステージを乗り越えるために、読者の多くに「定活」に向けて少しでもひるまない勇気を与えることができれば幸いです。
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著書:岡本 茂靖(瀬戸内scm株式会社 代表)
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